皆さん、今までに一度は考えたことがありませんか?
「もしも突然エレベーターのワイヤーが切れて落下してしまったらどうすればいいの?」
なーんて。
アメリカで行われた調査によると、エレベーターの事故で死亡する確率は
約0.00000015%
とのことなので、そんなことを考えても杞憂というか、そんな心配するぐらいだったらもっと別の事に脳を使って欲しいところではあります。
宝クジを1枚だけ買って
1等が当たる確率と
ほぼ同じらしいですね。
ですが、これを物理学の観点から真剣に考えてみると結構面白い!
てなわけで、本記事では上記の疑問について真面目に考察・解説を行っていきます。
つい先程は
「考えてもムダ」
みたいなことを言いましたが、日常で起こる何気ない自然現象をはじめ、色んな物事・出来事に対して疑問を持つというのは素晴らしいことです。
なぜなら、物理や化学といった学問の発展は、そういった何気ない疑問を突き詰めて研究していった成果なのですから。
…ちなみに、冒頭の疑問について、皆さんはどんな回答を考えたでしょうか?
う~~ん…。
着地の寸前にジャンプ
とか?
きました!
テンプレ回答!
さて、それは果たして可能なのか!?
そういった点にも触れていきますので、少しでも気になった方はぜひ最後までご覧くださいませ。
エレベーターの仕組み
さて、まずは本題に入る前にエレベーターの仕組みについて軽く紹介しておきます。
エレベーターがどんな仕組みで上下に移動しているのか、考えたことはあるでしょうか?
全部一緒に見えますが、
意外にも何種類かあるん
ですよね。
種類によって結構仕組みが違いますので、どんな種類があるのか見ていきましょう。
エレベーターの種類
エレベーターには大きく以下の4種類があります↓
「つるべ式」
おもりとカゴでバランスを取りながら上下させる。
一般的なタイプのエレベーター。
「巻胴式」
モーターを使ってワイヤーでカゴを上下させる。
おもりが無い分モーターの負担が大きい。
「油圧式」
油の圧力を利用してカゴごとジャッキを上下させる。
モーターとワイヤーを使わない。
「リニアモーター式」
リニアモーターを用いてカゴを移動させる。
上下だけでなく左右の移動も可能。
(「カゴ」とは人が入る箱の部分のことです)
※他にも車のようにタイヤがついていてレールを走るタイプや、カゴが上下に2つ付いた2階建てタイプなど、細かい種類を含めるとまだありますよ。
恐らく、エレベーターと聞いて皆さんがパッと頭に思い浮かべたのは「巻胴式」ではないでしょうか?
と言っても、少ない文字だけの説明では、どの種類を考えたのかイマイチ分からないですよね。
巻胴式というのは以下のようなものです↓
うーーん、
めっちゃシンプル!
本記事のメインテーマは
「落下したらどうなるのか?」
であって、エレベーターの種類は大きな問題ではありません。
なので、今回はこの最も単純な構造である「巻胴式」をイメージして以降の記事本文をご覧ください。
それにしても、上下だけ
でなく左右にも移動する
リニアモーター式って
凄いですよねー。
(近未来って感じがするのは僕だけでしょうか?)
エレベーターの安全装置
ところで、皆さんは上の画像を見て、どう思いましたか?
ぶっちゃけ
けっこう危なそう…。
とか思いません?
ちょっと見
「人が沢山乗ったらヤバいんじゃ…」
なんて心配になる絵面ですよね。
でも心配ご無用!
エレベーターには落下事故を防ぐ為の安全装置がいくつも備わっています。
その安全装置が付いているのは主に以下の4箇所↓
①ロープ(ワイヤー)
②巻上機
③カゴ
④緩衝器
まず①についてですが、カゴを上下させるワイヤーは鋼鉄製で、しかも通常は1本ではなく3~10本でカゴを吊り下げています。
上の画像は分かりやすく
表現されているだけです。
なにも
縄みたいなヒモ1本
ってわけじゃないということですね。
また、エレベーターには定員(最大積載量)が設けられており、それ以上の重さになるとブザーが鳴ることはご存じかと思います。
実は、あの定員の10倍程の重量なら、ワイヤーの強度的に耐えられるようになっているんですよ。
なので、フツーに使っている分にはワイヤーが切れること自体ほぼ有り得ないってことですね。
次に②ですが、もしもワイヤーを巻き取る巻上機が故障した場合には、緊急ブレーキがかかるようになっています。
しかもブレーキは2つの
2重ブレーキ仕様です。
③のカゴについては、カゴの位置や速度の異常を感知してブレーキをかけるように伝える保護装置を設置。
さらには、万が一(いや億が一)
ブレーキが2つとも故障して
3~10本のワイヤー全てぶち切れて
カゴが落下したとしても、地面には着地の衝撃を和らげる④緩衝器が取り付けられています。
(まぁこの緩衝器については効果が定かではなく、ほんの気休め程度ではありますけど…)
それにしても、これだけの安全装置が一つ一つのエレベーターに備わっていると知れば、いかに落下の心配をすることが杞憂であるかご理解いただけたのではないでしょうか。
なんせ事故死の確率
約0.00000015%
ですからね。
エレベーターの落下と終端速度
――と、エレベーターの仕組みと安全性を紹介しておいて何ですが、それでも実際に落下事故が起こっているのは事実。
というわけで、ここからは仮に落下事故が起こった場合のことを考えていきます。
まず気になるのは
一体どれだけの速度になるのか?
それには高校物理で習う「終端速度」というものを知っておく必要があるのですが、恐らく聞いたこともないという方が多いでしょう。
僕も授業の為に勉強する
までは全く知らなかった
ですから。
(高校物理は途中で断念したので…)
そこで、以下では終端速度の意味とエレベーターの落下速度について見ていきましょう。
終端速度とは?
物が落下すると下向きの力(重力)によって、だんだん速くなっていくことは既にご存知かと思います。
その加速の割合(加速度)はと言うと
1秒経つ毎に秒速9.8mずつ速くなる
といった具合です。
それでは、その加速ってずっと続くのでしょうか?
そんなことはありません。
もし、いつまでも加速し続けるとしたら、雨粒は凄まじい速さになって私達の身体を打ちつけることになるでしょう。
正確には時速500km
程になるのだとか。
リニアモーターカー
並みですね。
それは、空気が雨粒の落下を妨げているから。
(「空気抵抗」というやつですね)
この空気抵抗というのは、物体の速度が速いほど大きくなります。
例えば、ゆっくり歩いている時には空気が身体に当たるのを感じられなくても、車に乗って窓から顔を出すと空気が当たるのを強く感じますよね。
このように、雨粒も落下によって速くなるにつれて、空気の抵抗を強く受けることになるのです。
そして、重力による下向きの力と空気抵抗による上向きの力が釣り合うことで、加速が止まり速さは一定となります。
この限界まで速くなった時の速度こそが
終端速度
出来る限り分かりやすく
書いたつもりなんですが
いかがでしたか?
(小学5年生の授業で話した時は、大体理解してもらえたと思うのですが)
終端速度の例
重力加速度は全ての物体に共通ですが、空気抵抗はそうではありません。
紙のように薄く広がった形では、空気がぶつかり易いので空気抵抗は大きくなります。
一方で、細く尖った形では空気がぶつかりにくく空気抵抗が小さくなる、といった具合です。
つまり、物体の形状(空気の影響の受けやすさ)によって終端速度は異なるということ。
色々なモノの終端速度を挙げてみましょう↓
アリ:時速25km
硬貨:時速50km
ネコ:時速100km
人間:時速200km
こんな具合ですね。
もしも高層ビルの屋上から500円玉を落として、不幸にも地上の人に当たってしまったとしても、その時の速さは時速50kmくらい。
せいぜい軽く叩かれた程度
の衝撃でしょうか。
アリに至っては、たとえ上空1万mの高さから落としても時速25kmで、まず死ぬことは無いでしょう。
対して
人間の終端速度は時速200km
この速さでコンクリートにでも衝突したら、生きているのが不思議なレベルですね。
エレベーターの終端速度
さて、ではエレベーターの終端速度は一体どのくらいでしょうか。
これによって、落下した後の生存率も大きく変わってきますよね。
エレベーターの終端速度については、カゴの形状や大きさによっても変わるのでネットでも諸説あります。
遅いもので
時速87km
他には
時速100km、
時速200km
と主にこれら3つの説が有力です。
というわけで、本記事では間をとって
時速150km
として考えていきましょう。
プロ野球選手のストレート
ぐらいの速さですかね。
人の自由落下より幾分マシ
ですが、十分恐ろしい…。
もしエレベーターが落下したら?
さて、ようやく本題にやってきました。
もしも
ブレーキが2つとも故障し
3~10本のワイヤー全てぶち切れ
その結果
エレベーターが落下してしまったら
一体どうすればいいのか?
エレベーターが終端速度まで達するには30階程の高さが必要みたいですから、ここでは仮に東京スカイツリーの一番高いフロアである第2展望台と同等の高さ
100階
で落下事故が起こったとしましょう。
メートル換算すると
約450mです。
※まぁ終端速度に達したら速さは変わらないので、別に50階でも80階でも地面に衝突した時のダメージは同じなんですが、何となくヤバそう感が増しますね。
これで、落下中に終端速度である時速150kmに達することになります。
それでは、まずはカゴ内がどんな状況になっているのか見ていきましょう。
状況次第で、出来ることも
変わってきますからね。
カゴ内の状況
結論から言うと
ほぼ無重力です。
なぜなら、自分もカゴも重力を受けて一緒に落ちているので、自分には床が無いように感じられるから。
無重力状態とは、なにも本当に重力が無い状態とは限りません。
ただ落下している、つまり自由落下の状態では重力を受けているものの、それを感じることが出来ない為に無重力のように感じます。
さながら宇宙船に乗っている宇宙飛行士のような状態です。
ということは、カゴの中にいる人間は
めっちゃフワフワしてます。
エレベーター落下という
危機的状況でなければ
楽しそうですね。
着地寸前ジャンプは可能か?
この
「もしエレベーターが落下したら?」
という問いに対して
「何となくイケそう!」
と思って挙げられる回答の一つが
着地寸前ジャンプ
しかし、残念ながら着地の寸前にジャンプすることは不可能に近いでしょう。
というのも、主に以下2つの理由があるからです↓
①そもそもジャンプできない
②タイミングが分からない
前述の通り、カゴの中にいる人は無重力に近い状況下にいます。
そんな中、即座に体制を整えて床に足をつけ、グッと力を入れてジャンプ!
なーんて芸当が出来るのは、バリバリ現役の宇宙飛行士くらいです。
加えて、仮に運良くジャンプできる体制がとれたとしても、一体いつジャンプすればいいのか判断できるでしょうか?
?? いやだから、
着地の寸前でしょ?
考えてもみて下さい。
ジャンプする人は
エレベーターのカゴの中ですよ?
四方八方どころか、上下まで壁に囲まれたカゴの中で、外の様子を伺うことは到底できません。
まぁ最近はガラス張りの
エレベーターも増えてきた
ので、それならワンチャン
タイミングとれますね。
ただ、それでもかなり困難なことには変わらないでしょう。
なにせ終端速度は
時速150km
ですから。
プロ野球選手のストレートに初見でタイミングを合わせるのと同等の行為です。
バッティングセンターで時速150kmの球を体感したことがある方は共感いただけると思いますが、時速150kmって
とんでもなく怖い。
バッターボックスを過ぎてネットにぶつかるとハンパない音が響き渡ります。
一目見ただけで
「あ、コレ当たったら死ぬわ」
と悟ること間違いないでしょう。
プロ野球選手の皆さん
マジ尊敬しますね。
ですが、もし万が一、奇跡的な確率でジャンプに成功したらどうでしょうか?
外の様子が全く分からずにフワフワする中、ヤケクソに足を振ったら偶然にも床を蹴り、それがタイミング良く着地の寸前だった――と。
「やった!これで落下の力を相殺できる!」
……相殺?
人間がジャンプする速さは、平均で時速5km程。
対して、エレベーターは時速150km
……うん、
全く相殺できてない。
ジャンプに成功したところで、わずかに時速5km分の速さしか打ち消せず、その直後に時速145kmの速さでエレベーターの床に叩きつけられる。
良くて大怪我、
普通に考えて死にます。
ってなわけで、結論としては
・着地寸前ジャンプは無理ゲー
・仮に攻略しても焼け石に水
ということですね。
まぁもし時速150kmで
ジャンプ出来るのなら
可能性ありますけど…。
↑50階建ての建物を飛び越えられる位のジャンプ力です。
落下中にとるべき行動とは?
では、そろそろ現実的に考えますか。
もうジャンプとか小賢しい逃げ道を考えるのは止めましょう。
こうなっては
地面への衝突は免れません。
この状況下で無傷とか
有り得ないですからね。
考えるべきは
いかに衝撃を致命傷にならない箇所へ分散させるか
ということ。
そこから導き出される回答は
寝そべって頭を手で覆う
これです。
じ、地味……。
派手な行動で助かるなら
苦労しませんから。
致命傷に繋がる脳への直撃は何としても避けるために、頭部は手持ちのバッグなどで守れたら一番安心なんですが、何も持っていない場合はせめて手で覆うようにしましょう。
そして、身体全体に衝撃を分散させるには、床に身体全体をくっつける必要があります。
ほぼ無重力の状態で寝そべるのは難しいのですが、可能な限り近い体制をとるように努めるのが最善策です。
何とか上手く寝そべることが出来たら、もう出来ることはありません。
後はまぁ
神にでも祈りましょう。
仏教派の方は念仏でも
唱えておきましょう。
最後に
というわけで、いかがでしたか?
日常にある物や出来事に疑問を持って思考するのは、自分で課題を発見し解決する能力を養えます。
一見バカげたことのように思えても、深く考えてみたら実は大変学びになることも多いでしょう。
何より、そいうったことの方が考えていて楽しくないですか?
僕は楽しく執筆させて
いただきました☆
時には教科書や問題集から目を離して、もっと今ある日常に目を向けるのも大切かもしれませんね。
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